広島にあるユニークな会社、扶桑ゴム産業。ゴムのブロックやシートを切ったり削ったりしてカタチにするのが得意です。
「えっ、ゴムって金型で成形するものでしょ?」確かに、そうなんですが、切削もできるんです。しかも高精度に!
このページは、主に切削という手法でゴム製品を加工・供給している弊社の取り組みをご紹介するものです。

最初に、これまでの弊社のあゆみ、次に加工技術にフォーカスしたもの、さらには通販サイトについての内容となっています。

弊社のあゆみ

現住所に移転した1965年(昭和40年)の頃の様子を描いたもの

創業当時の様子

1955年頃から始まった高度経済成長期に入り、日本の経済は好景気の波に乗りました。各ご家庭も豊かになり始め、やがて白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫といった「三種の神器」を手に入れることは夢ではなく現実となったのです。

そんな活気あふれる時代に、上山武夫が情熱を胸に秘め、1957年(昭和32年)広島市千田町に「扶桑ゴム」を創業し、工業用ゴムパッキンの販売を開始します。当初は、自動車や、家具向けの素材加工が主な事業でした。

 現住所の広島市南区宇品西二丁目に土地が購入され、新築移転したのは1965年(昭和40年)のこと。冒頭の挿絵はその頃の様子を描いたものです。ここなら潮風を感じつつ、仕事もはかどりそうです。

柔らかいゴムを切削する?

本格的にゴムの切削加工が始まったのは1970年代の終わりごろ。それまで大手鉄工所に勤務していた腕利きの旋盤工が入社し、柔らかいゴムを旋盤で加工することに挑戦しました。当時も今も、ゴム製品と言えば「まずは金型を作るもの」というのが常識です。また、切削するとしても、ひとつずつ職人の手作業で作ることが一般的でしょう。ですから、ゴムを旋盤で加工することはある意味革命的だったのです。

1980年代に入り、切削のノウハウが蓄積されるにつれて、フライス盤などを使ってのゴム加工も本格的に始まります。背景にあるのはもちろん、刃物などの先端工具の開発が進んだことです。金属や樹脂を加工するための刃物や工具は一般的ですが、ゴムとなると話は違います。

そこで、刃物の形状や材質を見直しゴム加工に特化したものを自社開発することになりました。こうして、削りにくいゴムでもカタチにできるようになったのです。現在も、加工方法や刃物の開発に力を入れ、技術力の向上を続けています。

「ゴムは削らず、切る方がうまくいく」

ゴムの切削加工には、切る、削る、研磨するなどの方法があります。しかし、三代目の社長は口を酸っぱくして「やわらかいゴムは削らず、切る方がうまくいくんだ」と言ったものです。詳細は企業秘密のためすべてを明らかにはできませんが、弊社では、まず「切る」というアプローチを選択します。なぜなら、この方法は表面をなめらかに仕上げることができる上に、粉塵の発生を最小限に抑えるため、健康被害の低減にもつながるからです。

いざ県外へ

1980年代と言えば、今のように電子メールやインターネットが普及するのはまだまだ先の話でした。しかし、それまでの郵便による図面のやり取りはファックスに置き換わります。さらに、宅配業が盛んになり、物流も変化しました。そのため、1990年代に入ると製品の納品先も県外へと拡大します。弊社は広島にある会社ですが、ファンが全国へと徐々に広がっていきました。

県外進出のきっかけとなった要因は他にもあります。それまでメインで取引していた地場会社の仕事が先細りになるというのです。この変化に危機感を覚えた一人の社員が立ち上がります。「うちの会社の技術力や製品には訴求力がある!」と確信していた彼は、サンプルを数点納めた小さな入れ物を手に、ゴム製品に関連する会社の門を叩いたのです。

県外の見知らぬ者による飛び込み営業、門前払いにされるかと思いきや、サンプルを見せた途端みんな目を丸くします。それらはシンプルではあるものの高い技術力によって裏打ちされたものだったのです。最初は隣県の山口県、次に九州へ、それから関西、首都圏へと営業活動を広げ、徐々にファンが増えていきます。おかげさまで、今では弊社は全国に知られるようになりました。

小さなサンプルが、大きな力に

いよいよコンピューター化の波が

弊社がCNC(Computer Numerical Control コンピュータ数値制御のこと)旋盤を導入したのは1991年です。当時、ゴム加工は主に職人の手作業によって行われていました。弊社は早期から金属加工に使用される汎用旋盤やフライス盤、ボール盤などを導入していましたが、コンピュータ化は夢のまた夢でした。しかし、当時の工場長は、金属加工で一般的になりつつあったCNC旋盤を自社にも導入したいという強い願いを持っていました。彼は思い切って購入を決断しました。「金属や樹脂で可能なら、ゴムでもできるはずだ」と考えていたのです。しかし、柔らかいゴムをCNC旋盤で加工することに対して、最初は職人たちも懐疑的であり、工作機械メーカーも難しいと考えていました。しかし現在、弊社ではCNC工作機械を用いた切削加工による製造が主流になっています。

「マリオ」の登場

工作機械には愛称がつけられており、CNC旋盤一号機(下の挿絵)はそのコンピュータ制御の特性から「マリオ」と名付けられました。お分かりの通り、ファミコンのキャラクターです。導入当初、操作方法についてはさっぱりで、職人たちは頭を抱えました。社長の巡回時には、わざわざ電源を急いで入れて、「マリオ」が動いているふりをしていたほどです。今となっては、そんな苦労も懐かしい思い出です。

CNC旋盤第1号が導入されたのは1991年

2000年頃、金属や樹脂加工業界では利用が始まっていたCAMが導入されました。これでコンピューター化がさらに加速します。仮想空間で事前に加工プロセスを生成できるこのCAMの導入によって、曲面を精度よく切削することが可能となりました。ものによっては加工スピードも飛躍的に向上しました。

一方で、長年にわたり培われてきた職人の技術を見過ごすわけにはいきません。加工手順が様変わりし、CAMが活用されても、匠の勘所は今でも活かされています。先輩たちが築いてきた、ゴムを切削してカタチにする技術は、新たな技術と共存し、受け継がれているのです。

ウェブサイト「ゴムの悩み相談室」開設!

「鉄を加工するのは鉄工所 木を加工するのは木工所 では、ゴムを加工するのは…?」というキャッチコピーで始まるウェブサイト「ゴムの悩み相談室」がオープンしたのは、インターネットが一般に活用され始めて日が浅い1999年秋でした。

この「ゴムの悩み相談室」は、ゴム加工の新しい可能性を探求する場として活用されました。「ゴムでも切削加工ができる」という発見は、多くの人々にとって目新しいものであり、このウェブサイトはその情報を広めるのに一役買いました。また、小規模ながら素材のネット通販も始まります。多くのお客様が、当ウェブサイトを閲覧したことがきっかけで、私たちとの取引を開始されました。その中には、今でも長くご贔屓いただいている会社もあります。 

弊社のあゆみ(後編)

私たち、扶桑ゴム産業のあゆみ。後編では、技術革新の経緯をご紹介します。